「悪魔の涙」振り返り②
振り返りの第二弾。今回は各キャストに焦点を当てていきます。
今回は残念ながらカラヤン組のゲネプロの撮影が間に合わず、通し稽古の写真を混ぜての振り返りとなります。
寺尾海史(カラヤン組橋本秀一役)
アクトが真っ先にオファーを出したのは彼でした。秘めた野性と、生まれ持った類まれな器量、人を惹きつける独特の佇まいは、実年齢差20歳上の秀一役を演じてこそ活かすことができるのではないかという考えからでした。
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実際に彼は、稽古開始から千秋楽まで比較的若いカラヤン組を板の上で、また稽古場で、時に稽古場の外でもメンバーをまとめ上げ、この2ヶ月を通して本当の意味で秀一という人間に近づき、自分自身を色々な側面から成長させたのではないかと思います。
山田昌(リヒター組橋本秀一役)
過去のアクト公演出演者の中でも最年長の彼に、縁あって秀一役を依頼することになりました。そんな彼は立ち回り、一瞬いっしゅんの表現の深さ、演出に対するレスポンス全てにおいて過去最高の俳優でした。
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せめて稽古期間があと一か月長ければ、この公演期間がもう少し長ければ、もっと筆者の求める秀一と彼の持つ秀一像に良い化学変化を起こすことができたのではないか。そんな悔やみを今は持っています。
高橋寛香(カラヤン組橋本瑛子役)
昨年7月の第二回公演以来の出演でしたが、一回りも二回りも成長を遂げての今回の出演でした。どんな時でも陽気を失わず、その場の空気を明るくしてくれる彼女は、このシリアスな作品において縁の下の力持ち的な存在だったと思います。
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そんな彼女が演じる瑛子の中でも、「中流になりきれないブルーカラーの妻の姿」は際立っていました。
鹿目真紀(リヒター組橋本瑛子役)
普段から大人の色気を持ちながらどこかコケットな独特の佇いをしている彼女ですが、劇中の各シーンでの自身の役割に対するセンスが光る俳優でした。
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また瑛子として家庭に尽くそうとする妻の姿を好演しました。
大関愛(カラヤン組橋本唯役)
初演の唯役だった彼女が、一年越しにおそらく自身としては初めて同じ台本で同じ役に挑戦したのではないかと思います。表現力、情感のコントロール、いずれも一年前と比べて成長した姿を見せてくれました。
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純粋で、真っすぐに生きようとする野花のような唯。一種の自身の信仰を貫いて“殉教”した唯が最後天使となる。そんな姿が描けたことに筆者としては喜びを抱かずにはいられません。
五十嵐咲帆(リヒター組橋本唯役)
追加募集で4月からの参加だった彼女。喜怒哀楽の振れ幅が高く、その突き抜け方はある種の高揚感をもたらしてくれる。そんなタイプの彼女が演じる唯は台本のイメージといい意味で違っていて、それがリヒター組とカラヤン組の性格の違いを決定づける要因になれたかと思います。
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一つのシーンでの持ち込みや発想力も優れていました。しかし、悔やまれるのは参加が一か月遅く、それらが未完成のまま終わったこと。いつか再挑戦してくれることを祈ります。
徳田夕葵(カラヤン、リヒター組少女時代橋本唯役)
現在10歳で普段キッズミュージカルの出演が多い彼女が、初めて大人の中に入り込んでストレートプレイに挑戦しました。
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稽古場では常に屈託のない笑顔で稽古場を明るくしてくれました。英語のシーンを自宅や稽古場で何度も稽古し、驚くほどの吸収力で上達させました。
中島佳菜(カラヤン組あみり役)
現在尚美学園大学4年生の彼女が初めて外部出演選んだ公演がこの「悪魔の涙」そして役があみり役でした。限りなくあみりに近いルックスを持つ彼女でしたが、実際に演じる部分については多くの苦労をしたことでしょう。
自分自身にあみりと共通する心理が隠されていながら、あまりに自分に近すぎるあまりにそれを彼女自身が客観視することができないままもどかしく時間ばかり過ぎていったのを覚えています。
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しかし、彼女の成長への渇望がそのままでは終わらせませんでした。劇中で星空を見ながらあみりが一人ノートを読みながら、父のことを思い浮かべ涙するシーン。演技としては難易度の高いあのシーンをクリアした瞬間を一度だけ見ました。それが今回彼女にとって一つの到達点であったと思います。
渡辺京花(リヒター組あみり役)
昭和音楽大学のミュージカルコース所属で、本格的なストレートプレイは初挑戦という彼女。当初表現が先行しがちな印象でしたが、一度あみりという人間が身体に染み付いたあとは、最も安心して見ていられる俳優の一人になりました。
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あみり以上に感情に深入りしてしまう彼女にとってこのあみりという役はかなりの負担だったのではないかと思います。おそらく今後も彼女が舞台に立ち続ける以上、その負担とは戦い続けることになるでしょうが、きっと彼女ならそれを乗り越えさらに高みへ駆け上っていくことと信じています。
武石螢(カラヤン組勇太役)
大学を卒業してこれから本格的に俳優を目指すという彼は、今回の座組を通して最も成長をした一人だったと思います。
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演出や周りの意見、助けを彼自身の感性で消化して不器用で真っすぐな勇太像を作り出し、形にしたのです。また彼は勇太という役を通して、それも「勇太」という架空の人物を通して生身の自分自身を成長さたのです。
野澤佑介(リヒター組勇太役)
一つの方向性として「真面目」な性格の俳優が多かった今回の座組の中でも特に真面目だった俳優の一人でした。深刻な人員不足に悩まされるアクトの中にあって、積極的に衣装小道具担当を買って出てくれ、特に衣装や小道具の数が多い本作にあって、彼の舞台裏での活躍はここに特筆すべきものがありました。一方、自身の役についてはギリギリまで悩んで苦しんでいたのではないかと思います。
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しかし、彼もまた成長への欲求がそこで留まらせませんでした。周囲の助けを借りつつ自分自身を成長させ、その成長を劇中の勇太の成長にも繋げていきました。
夏川未羽(カラヤン組愛美役)
感受性豊かで、根の優しい彼女にとって愛美という役は様々な面で厳しい役だったのではないでしょうか。芝居の中で特に役作りというのは、普段の人格(言動だけでなく、物事の感じ方も含めて)と役の人格との対話で作り上げてくものだと思いますが、そういう意味で彼女は役との対話の中で自分の精神ギリギリまで役に寄り添う俳優だったと言えると思います。
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主に後半からの登場でしたが、彼女の登場で場の空気が一気に引き締まり、観客をストーリーに引き込む上で大事な役割を果たしてくれました。
赤峰マリア(リヒター組愛美役)
追加募集で4月からの参加だった彼女。台本上の愛美に最も近いルックスを持つ俳優でした。最も最後の参加でしたが、まるでパズルの最後のピースがピッタリはまったかのような感覚を得たのを覚えています。この雰囲気を出せる俳優に未だに会ったことがありません。
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舞台が久しぶりということで不慣れな部分も多くあったかと思いますが、最終的には冷淡な愛美を好演しました。
田中ゆうせい(カラヤン斎藤良介役)
これまで舞台芝居がメインだったと思われる彼にとってアクトの自然な演技を習得するのは苦労が必要だったことでしょう。未だ経験のない妻や供を持つということに対して自分なりに研究し、ひたむきな良介を演じました。
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この経験を通して一層飛躍してくれることを期待しています。
小川雄気(リヒター組斎藤良介役)
普段から心穏やかで誠実さに溢れている彼は良介を演じる時にもその性格がにじみ出るようでした。表だって目に見えたわけではないにしても良介という役について深く考えて、シーンをどう演じたらいいかを深く考え落とし込んで稽古に挑んでいたと思います。
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第四章であの世からあみりに会いに行くシーンでは多くの観客の涙を誘いました。これは良介として家族を思う気持ちあってのものだったと思います。
税所千珠(カラヤン組諏訪桃子役)
応募当時18歳で演技も舞台も初挑戦だった彼女。演技審査の一人芝居で不思議な魅力を放つ姿に魅せられ起用に至ったという経緯があります。最初は、稽古やミーティングについていけず、泣いてばかりいた彼女でしたが、最後は友達思いな桃子を見事に演じ切りました。
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この二カ月を通して乗り越える課題もたくさん見えたことでしょう。今後の成長に期待です。
ひとみほのか(リヒター組諏訪桃子役)
普段、熱帯地方の人のようにふわふわとしている彼女ですが、半面芝居に対しては情熱と冷静な判断力を持っている俳優です。中学時代と高校時代で桃子の全く違った面を演じ分け、劇中の時間の流れの表現にとても大きな役割を果たしてくれました。
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欲を言えば稽古期間、公演期間がもう少し長ければもっと完成したものになったのではないかというところです。もしこの公演を通して彼女なりに掴んだものがあるとしたら今後に活かして欲しい、それが今回もった彼女への希望でした。
山口翔平(カラヤン組悪魔役)
普段、自由奔放で社会性皆無の彼ですが、台本を丁寧にかつ的確に読み込み、板の上では「こう演じたい」という意思がはっきり見える俳優だったと思います。また台本の意図を読み取りつつ、さらに独自の解釈を付け加えて、表現に幅を持たせていました。
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唯役の大関愛とも時間のある限り話し合いすり合わせを行い、さまざまな表現方法を試す中で、悪魔を月、そして唯を野花に見立てるという発想を得ることができたのです。
非常に個性的で、今後もっとそれを活かしたい。そう思わせるような俳優でした。
立花小春(リヒター組悪魔役)
リヒター組の完成度を高めるのに必要不可欠だったのが彼女の演じる悪魔の存在でした。稽古中他のシーンを見てよく泣いているところを見かけました、
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その感受性を内に秘めつつ、この世のものではない存在を演じる姿が台本の求める悪魔像に限りなく近く、筆者としてはその瞬間を目の当たりにするたび小さな快感を禁じ得ませんでした。
野中辰哉(カラヤン、リヒター組滝沢役)
今回の公演の影の立役者の一人です。台本上で桃子、勇太、滝沢の三人は三河弁を話す役どころでした。その中で、豊田市(三河地方)出身の彼は、東京出身の俳優たちに積極的に方言指導を買って出てくれ、芝居の世界観を向上させてくれました。
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カラヤン、リヒター組でそれぞれ違ったキャラの滝沢を演じ分け、それぞれでこの芝居で唯一の陽キャラを担ってくれました。この滝沢の存在は料理で例えれば欠かせないスパイスのような役割になってくれました。
最後に。
今回、アクトとして(過去シャッフルキャストはあったが)初のダブルキャストの公演を行い、両班がそれぞれの芝居に感化され影響されあっていく光景を傍から目の当たりにすることできました。
ただやるだけではなく、確実に意味のあるものとしてダブルキャスト公演を行うことができたことに大きな意義があると実感しました。
俳優が自分自身の価値観や自意識といった殻をぶち破って、いち人間として、全く新しい自分(=本来の自分)を手に入れた瞬間にいくつも立ち合いました。自身まだまだ勉強の身ですが、親心のような気持ちでその瞬間が自分のことのように嬉しく思えました。
といっても、これでようやくプロの俳優としてのスタートラインに立つことができたわけで、これで満足なんてしていいわけがありません。
自身を含めて、あの場の全員が高みを目指す身だとするなら、次回以降今回得た経験を糧にさらに成長してお会いできることを祈ります。
令和元年五月九日 安城龍樹
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稽古 3月1日~4月26日。
稽古場所:中野区内各所、山梨県内某キャンプ場、千葉県内某海岸等
製作美術:大関愛
宣伝用ビジュアル撮影:平賀正明
スナップ写真撮影:大関愛、安城龍樹、野澤佑介、上野晴行ほか
衣装小道具:野澤佑介、渡辺京花、中島佳菜、武石螢、税所千珠
音響照明:安城龍樹
使用楽曲(カラヤン組)「レクイエム」
作曲者:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
指揮者:ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏者:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
使用楽曲(リヒター組)「レクイエム」
作曲者:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
指揮者:カール・リヒター
演奏者:ミュンヘン・バッハ管弦楽団
挿入歌「rainbow」
作詞作曲:まつもとたくや / ioni
歌:Lyric : ame
協力:(株)平賀スクエア
作・演出:安城龍樹
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